
いろいろ気付かされることの多いお話でした。
特に、ウサギさんが牧草の固いところを残してしまうというお話。
人間からみれば無駄にする部分が多くてチェッて思うんですが、ウサギさんが好きな部分だけが入った牧草がいいと思うんですが、ウサギさんにしてみれば、好きなとこだけ食べてやったぜ!みたいな楽しみがあるって、目からウロコでした。
講演の内容は読みやすいように、多少、編集してありますので、ご了承ください。


この仕事をして23年目になりますが、始めた当初はウサギさんの環境はそんなにいいものではありませんでした。
用品もちゃんとそろってなかったです。
でも、今はウサギの用品も食餌も本当によくそろっています。
でも、ウサギさんにとっても飼い主さんにとっても、これが本当にいいのか、理想的な生活環境なのかと考えてみると、ちょっと違うかなと思うところもあります。

安心・安全な環境はフラットな環境ともいえますが、フラットとは平坦でいいイメージもある反面、「たいくつな」という意味でもあります。
ウサギさんはすごく好き嫌いがあるので、そういう面での不安や、フードや牧草もいろいろなものがありすぎて、何を食べさせていいのかという不安はあるかもしれませんが、食べることに関して不安はありません。
簡単に言えば、満足する状況が満たされてしまって、過保護な状況になってしまっている気がします。
たとえば、牧草のことで飼い主さんからお話をうかがうと、
「ウチの子は固いとこは食べないんです。だから、固いところを全部残して無駄になっちゃうんですよね。」
というような話が出たりします。
柔らかいところだけ食べさせてあげたいんです。
ウサギさんは柔らかいのを食べたい・・・
だけど、それを探して食べることもいいんじゃないかと思うんです。
柔らかいのだけ与えられて、それだけをもぐもぐ食べているのも、どうなのかなと感じます。
人間でも、何かを求めて、何か欲しいとか、もっとこうしたいとか思っていると、それに合わせて目標を立てたりして考えながら行動するので、大変なこともあるけど達成した時に幸福感がすごくあると思います。
すべてがそろってしまうと、これで本当に幸せなんだろうかと、人間は考えてしまうと思います。
ウサギさんも同じような気持ちになっているんじゃないかなと思ったりもします。

これをどうやって良くしていけるか、ウサギさんをもっと幸福にしてあげられるかということで、エンリッチメントという考え方を取り入れた生活を実践したらどうか、というのが今回のテーマです。

エンリッチメントの定義は、
動物の福祉と健康のために飼育環境に変化を与えること、飼育動物に刺激や選択の余地を与え、動物の望ましい行動を引き出すこと。
もう少し簡単に言うと、人間と一緒に暮らしている動物、ウサギが可能な限り心身ともに健康で幸せに暮らせるように飼育環境をデザインしたり、工夫を加えたりする手法というです。

環境エンリッチメントは5つに分類されます。
(採食、空間、感覚、社会的、認知)
この5つをどうしていくかということになります。

まずは食餌のこと。
いろいろなものを食べさせてあげることと、フォレイジング。
野生動物は1日の5割から8割を食べ物を探すために使っています。

住環境:生活空間の工夫、遊び、おもちゃ

穴ウサギは元々は、それぞれ穴を掘って共同生活をしています。
ウサギにとっては群れでの生活が生まれながらにDNAに刻まれています。
他の動物とのかかわりは、 自然界であったら、敵かもしれない。
ここでは人とのつながりについて。

頭を使うこと、新しい経験を積んでいくことも大切。

コンパニオンアニマルとしてのウサギの環境は野生と比べて変化がない。
いつも同じフード、同じケージ、同じ場所・・・
野生であればいろいろな体験をしていきますが、
ペットのウサギは人に合わせていくことになります。
多くのものを与えられて、愛情も注がれて、幸せな状況だとは思いますが、本当にそれでいいのか?
とも思います。
エンリッチメントによって、単調で退屈な生活に変化をつけて、適度な刺激を与えること、最終的にはそれがウサギさんの福祉の向上にもなります。
それによって、飼い主さんも幸せになります。

特別に「こうしなきゃいけない」とか、「こういうものだ」というのはありません。
ウサギさんが喜んでくれそうなこと - なでることでもいい。
ウサギさんが幸せになることを考えて実践していけばよい。
ただ、注意していただきたいのは、やってみて良かったことでも、ずっと同じことをしていたのでは飽きてしまうということです。
2週間もすれば飽きてしまうので、一定の期間ごとに変えていくようにしてください。

野生であれば、食べ物は探してもなかなか見つからないけれど、
ペットのウサギさんは、いつもの時間に食事が出て、いつもの時間にオヤツが出ます。
いつものところで、いつもの味で、となれば、人間なら飽きてしまいます。
食べ物を隠したり、食べにくくすることで、ウサギさんが本来持っている行動を呼び起こすことができます。
たとえば、「もじゃもじゃ」。
ドイツの Interzoo という世界最大のペットショーで、ドイツのメーカーさんがフェルトのような布を束にして四角く植え込んだもの(ウサギやモルモットがそこに隠されたフードを探し出す)を出していて、こういうのは日本のウサギ用品にはないなと思って、川井さんに作ってもらったもの。
エッグササイザーは、大きさの調節できる穴が開いていて、ウサギさんが転がして中の餌を取りだして食べることができる、というもの。

(もじゃもじゃに隠したオヤツをウサギさんが見つけて食べる、という動画)
野生で元々ある行動に基づいて探していますが、探し当てた喜びがあります。
エッグササイザーも Interzoo に出展されていて、元々は馬やいろいろな動物の知育玩具で、これを使うことで頭を使って活性化する、そうすると、寿命が長くなるという実験結果もあるという話でした。
頭を使うことで、よりよい一生をおくれます。

いつもと違うものは刺激になります。
オヤツも一番好きなものから5番目くらいまであるとよい。(1番目は特別な時だけ)
野菜は干してあげてもよい。
ウサギさんにも旬のもの、季節ごとに違うものを。
エアコンのある部屋、1年中変化のない部屋にずっといると換毛がだらだら続いたり、季節に関係なく換毛したりします。
季節を感じられるようにしてあげることも大切です。

ケージにつけるもの(ハウスなど)
サークルは大きめにして運動できるように。人が一緒に入って遊んででもいい。
ほりほりハウスは中にチップが入っていて、ウサギさんが掘れるようになっています。
段ボール箱や衣装ケースに紙をちぎったものやピンポン玉やボールなどをたくさん入れてあげると、穴を掘るようにして遊びます。
元々の本能を呼び起こすことにもなりますし、頭の刺激にもなります。
ラビットインは隠れ家ですが、連結して迷路を作ることもできます。

もじゃもじゃの元になったおもちゃを作ったメーカーの方が来日されたときに伺った話では、
ドイツではペットショップでウサギを買うときに、「もう1匹買いなさい」と言われるのだそうです。
去勢・避妊して雌雄で飼う、それがウサギの自然。
お互いになめ合ったり、毛繕いし合ったり、寄り添ったりすることがウサギの幸せではないか。
群れで暮らしているという、元々の感覚があるのは大切なことです。
日本でも多頭飼いは増えているけど、別々のケージで飼うのが主体です。
そうではなくて、ひとつのサークルで一緒に飼うのがいいでしょう。
クリッカートレーニングは人とのかかわり。
人もウサギをよく観察していないとできないし、クリッカートレーニングすることでウサギも人を見るようになります。
音が鳴るとオヤツがもらえるのというのがだんだん分かってきて、初めは音が鳴っても食べに来ないこともあるけど、そのうちに音が鳴るのをウサギが考えながら待っている、そういう状況にもなってきます。
より良い共生関係になってきます。
ラビットホッピングは人とウサギがペアになってするスポーツ。
ウサギを引っ張って跳ばすのではなく、ウサギが自分で跳べるように、走ったり跳んだりという普段の行動から引き出して、段階を踏んでできるようにしていきます。
ウサギさんは楽しんで跳ぶし、人はそれに合わせて走って行くという競技です。

5つのエンリッチメントはそれぞれが別のものではなく、関連付けてやっていくのがよいです。

好きなオヤツを探すことからでもいいし、
牧草もいつもチモシーではなく、ときどきは別のものをあげるとよいです。
いつもと違うにおいや味で活性化されます。

一緒に暮らしていて、ウサギさんからすごくたくさんもらっていると思います。
今はネットの情報があふれていて、何が本当にいいのか分からない状況です。
人に影響されたり、帰って心配事が増えたり、ときとしてウサギさんと暮らすことが辛くなったりすることもあります。
春になって暖かくなったら窓を開けて外の空気を入れることでもいい、桜の木の下に連れて行くのもいい。
ウサギさんにとってよりよい生活、ウサギさんが幸せを感じられることを考えてあげること、それを繰り返していくことが大切です。
ケージも同じレイアウトで1年も2年もというのではなく、餌入れの場所を変えるだけでもいい。
(トイレの位置は変えない方がいい)
牧草もいつもの牧草入れに入れるだけではなく、つりさげ式のものに入れてみてもいい。
たまには、上をむいて食べなきゃ、というのもよい。
楽しみながら、絆が強まるように。
みなさんもいろいろ調べてやっていってください。


