
18-19時の時間外の予約でしたが、1時間ちょい待ちで、診ていただいたのは最後。
それで、ゆっくりとお話をうかがうこともできました。

体重は 3.48kg。
「お~、育っとる。」
あの事件以来、ユキはメキメキ体重が増えて、結構あせりました。
術後、一旦は落ちたものの、またもメキメキ。
スパルタは控えて、ペレットも食べたいだけ食べさせているためでしょう。
そろそろ、減らしていきましょうか。
― エンセファリトゾーン (EZ) について ―
「手術の後、一過性に首が曲がったりひどくなったりしませんでしたか?
思ったより治りがいいでしょ。尾を引くような事がないというか。」
「そうですね、あ~、今日はひどいな・・・って思ったときもありましたけど、すぐ良くなりましたね。」
以前に比べれば殆ど気にならないレベルではありますが、首振りは依然、続いています。
「6歳のホトの子で、こういう感じの子がいるんですよ。
治療しても、やっぱり、相変わらずで。
脳の中で一瞬モワモワが広がるような感じなのかもしれませんね。
はっと我に帰るような感じで。」
多分、ユキのアタマの中は突発的に霧が立ち込めるのだと思います。
突然、ぼーっとして首がすーっと傾いて行くのですが、すぐに我に返って、
「何でもない、何でもない」って顔をします。
「EZの治療は根本的には眼振とか斜頸とかを治すのではなくて、EZが脳幹部に行って命を奪われるのを阻止したいということなんです。
EZを受け入れられるならそれでいいんじゃないかと思います。
悪化するようなら、脳幹部へ行かないように積極的に治療した方がいいんですけど。」
「今は、まだ完全に駆虫されないで残っている状態なんでしょうか?」
「これが現在進行形なのか、脳の傷害を受けた場所が治りきっていなくてこうなのか、というのは分かりません。
CPKという脳の酵素を測ると多少は推測できるんですけど。
損傷を受けた脳細胞は、もう元には戻りません。
ですが、周りの神経がつながって、切れた部分にう回路ができるんですね。
脳の神経がつながるのに時間がかかるのかもしれません。
脳圧が上がるとめまいが起こるというような、後遺症が残っているのかもしれません。」
現在の首振りが、EZが駆虫されきれずに残って続いているのか、それとも、脳の障害を受けた部分が戻らないために後遺症として残っているのかは現時点では不明ということです。
後遺症だった場合は、周囲の脳細胞がその部分を補完するようにネットワークを広げてくれれば、いずれは治っていくという事なのでしょう。
そして、EZに関する論文のお話。
「ウサギをEZに感染させて1ヵ月後に駆虫を始め、1ヵ月間飲んで3ヶ月後に屠殺すると、そのとき脳の中にEZいないことが確認されています。
でも、この場合、感染してまだ1ヵ月しかたってないんです。
抗体が陽性であることを確認してからやるわけですが、我々の臨床例ではもっとたっている子たちです。
胎盤感染した子なら、お腹の中ですでに4週間たっているので、出産直後、産まれてすぐからなら同じ効果が期待されるということです。
原虫の仲間のコクシジウムは生後半年までに落としきれないと一生出続けるんです。
どうも同じような感じで、EZは原虫とは違う分類されているんですけど、ある時期までにきっちり殺さないと、隠れ蓑みたいな感じで残るのではないかという気がします。
EZは、いるだけならかまわないんです。
免疫がそれを攻撃すると、何かが起こるわけなんだけど。
状態が安定すれば、発症しないんじゃないかと思います。
これが現在進行形なのか、後遺症で電線がつながりにくくなっているのかは分かりません。
IgM 抗体とIgG 抗体を測定して判断する手もあるけど、あまり一般的じゃありません。
とりあえず駆虫薬を4週間飲んでみて、反応が良ければグリセリンを飲んで脳圧を下げる治療もしてみたらどうかとも思います。
ステロイドまではちょっとどうかと・・・今は、傷があるので。
そいうことをやってけばいいと思います。」
「CPKを測ると推測できるというのは?」
「CPKは心筋梗塞なんかの指標になります。
筋肉と神経の異常を教えてくれるんです。
もう一つ、筋肉の異常があるときに上がるのがGOTです。
両方とも高値なら、筋肉の異常を示します。
CPKは高値だけど、GOTが正常なら神経の異常じゃないかということになります。」
「CPKが高いと、現在進行形ということですか?」
「かもしれない・・・確立されてはいないんです。
斜頸がひどいのにCPKが低い時には耳じゃないかと推測します。
でも、脳幹部に行ったら死んでしまう病気なので、CPKが低くて可能性低くてもEZの治療をします。」
「CPKだけが高かったら、確実にEZという事になりますか?」
「いや、それが、正常でも高くなる事もあるし 採血の仕方によっても上がる事があります。
採血が下手だと、血管を引っ張ってしまって高くなります。
この子のレベルの血管だと、そんなことはなさそうですけどね。
どっち道、使う薬一緒なので、あまり血液検査はしないんですよ。
CPKが高値だったら、より重症度が高いのかとかというと、そういう事でもなさそうなので。
長くステロイド使わなければならない状況の時に、肝機能が悪くなるんじゃないかとか推測されるような時は、予め検査します。
今は、どこがこの子の正常なのかを見極める段階じゃないかと思います。
でも、お手元にはいつでも急な変化に対応できるようにお薬、フィバンテルとステロイドを持っていてください。
ステラロールは持っていましたよね?
明け方に急変起こることが多いので、そのときは、0.5mL 飲ましてください。」
「EZの薬と両方ですね?」
「そうです。
何とも言えないけど、なんとなくこのまま問題なく推移していくんじゃないかという気がします。
今後発症したら考えるという事でいいと思います。」
ということで、ユキの治療はひとまず終了となりました。
「また、歯がどうしようもない状態になったら、また来てください。」
ということです。
家に帰ってから、あずさんで術前にやっていただいた血液生化学検査の結果を確認しました。
CPK 373 GOT (AST) 15
どちらも、いたって正常値でした。
バンザ~イ!
もちろん、これだけじゃ分からないんですけどね。
せっかく検査していただいたのだから、今度、検査結果のコピーをきち先生にもお渡ししておこうと思います。
疑問あれこれ
ダッチさん&まい君事件の後、この子たちの感染が気がかりです。
もちろん、どんな先生だって感染したともしないとも言えないのは分かっています。
でも、少しでも手がかりが欲しくてお聞きしてみました。
なにより、男団子存亡の危機でもありますし。
「EZのスポアが出る時期というのは決まっているんですか?」
「それが、決まっているんです。
感染して2週めか3週めの、1週間か2週間しか出ないんですよ。
それだけ感染しにくいものとも言えます。」
「胎盤感染して生まれてきた子の場合はいつごろになりますか?
産まれてすぐとか?」
「感染して1週間くらい経つと、マクロファージという免疫細胞に運んでもらって・・・免疫細胞を騙すんですよ。
そして、脳とか腎臓とかの寄生部位に行って増殖した後、1ヵ月くらいで1週間ほどスポアを出すんですね。
理論的には出産後、産まれてすぐにスポアを出すんでしょうけど。
旭山動物園の先生がなんとか証拠を見つけ出そうとしたんですけど、見つからなかったんですよ。
腎臓にも検尿でも見つけられなくって、彼の論文でも “~と言われる” というような書き方しかしてないんですよ。」
「まい君やダッチちゃんは、感染したと思った方がいいんでしょうね?」
「考えたらきりがないかもしれませんよ。
発症の予防効果はあると、論文では言われています。
予め2週間投薬して、それから感染させるんですね。
それで感染が成立しているかどうか調べる。
投薬をしなかったグループにも同様にやって、投薬をしていたグループは感染しなかったということです。
効果があるかどうかは分からないんですけど、昔、ラビットショーのオフ会なんかに行くときは怖いから飲みましょうなんてやってた時期がありましたが、今はやめました。
脳幹部に行くのが怖いんであって、斜頸を議論してもしょうがないなって、そう言うと斜頸のウサギさんの飼い主の方に失礼なんですけど、僕らの仕事としては命を救いたいってことを考えています。」
「斜頸で死ぬことはないってことですか?
脳幹までいかなかったら、どんなに斜頸がひどくなっても死なない?」
「斜頸の子が来たら、ほめてあげるんですよ。
“よく斜頸で教えてくれたね” って。
脳幹まで行くと、斜頸起こしてキーって言って、5秒で死にます。」
「前触れもなく、ですか?」
「そうです。
昔、突然死と言っていたものの中には、かなりEZがあったのではないかって思います。
最初にそれを感じたのは・・・・
その論文の5年くらい後に札幌でオフ会があって、行った子が、その1週間後に軒並みみんなキーって言って死んじゃったんです。
参加したうちの1頭が旭山動物園から行った子だったんです。
EZである事を知らずに行ってしまったんです。
もう、それは衝撃的な事件でした。」
みんながみんな感染して、同時に発症して、しかも死に至るなんて事があるのかしら・・・?
さっきまでの話と違うような気がしました。
「それは、偶然の一致ってことですか?」
「その頃は日本にはEZはないと言われていた時代なんですよ。
今市場に出ている子たちは、殆どEZを受け入れて一緒に暮らす遺伝子持っているはずなんですよ。
でも、その子たちはまだ、その遺伝子持ってない子たちだった。
免疫がなくて大人になってから麻疹かかったら大変・・・みたいなことです。
世代交代が6-7年ってのは意味があると思うんですよ。
「感染が広がっちゃった方が、みんな耐えられるようになるって事なんですね。」
「今はブリーダーさんにはEZを排除するのではなく、EZに負けない強い子を作ってくださいと言っています。
受け入れられるように。」
「オフ会のその子たちは、お互いに接触したわけではないんですよね?」
「いや、それがみんなでオシッコ舐めあったりしちゃったんですよ。
当時、尿から感染するなんて認識ないので。
昔はオフ会怖いから、薬飲みなさいとかやってたんですけど、その後、実際に検査してみたら陽性の子ばっかりなんですよ。
だから、あんまり意味ないんじゃないかって。
検査して陰性の子の方がむしろ怖いんです。」
なかなか衝撃的なエピソードではあります。
そんなことが実際にあったのだから、そりゃ、オフ会、目のかたきにされる訳です。
ウサギさんたちは世代交代して、それなりに抵抗力をつけてきたけど、怖い話だけはいつまでも残る・・・
みたいなところもあるのでしょうね。
寄生と共生の関係、それこそが生命の進化の源です。
寄生する側にとっても、全部が全部宿主が死んでしまえば困る訳で。
初めは殆どの個体が死亡したとしても、必ずやそれを突破する者は現れるし、昨日の敵がいつまでも敵であり続けるとも限りません。
いずれはEZも怖いものではなくなるのでしょう。
こういう話って面白いなと思います。
こんなに面白いのに、どうしてもっと研究が進まないんでしょうね?
実験ウサギさんというのは、一般のウサギさんとは接触のない場所で生産されていますから、ユキたちの仲間だって、つい最近まではEZにはさらされていなかったのかもしれません。
それで、急にこういう子が出始めているのかもしれない。
ダッチさんたちは1993年来のクローズドコロニーで産まれた子たちです。
こちらはEZはどうなんでしょう?
心配してもしょうがないけど、まあ、あれから1ヵ月近くたちますが、みんな生きてます。
こんな話を聞いた後では、まだ死んでないって事は、それなりに安心材料ではあります。
「EZ自体は悪さしないんですか?
腎臓とか脳への直接の影響というのは・・・?」
「EZそのものよりも、それに対する免疫反応による障害の方が深刻なので、あまり問題視はされていないんですけど、だからと言って、何も害がない訳ではないと思います。
でも、それはまだよく分からないんです。
斜頸の子が小脳の異常で、神経が切れるような状況で、それが起こったのなら、たった1日で治るわけがないんです。たった1日で切れた神経が治るわけがないんです。
だけど、普通にお薬で1日で良くなる子もいるんですよ。
それはどう違うんだろうって、ずっと疑問で、それはてんかんの一種じゃないかって発想を持っているんですよ。
気付いたところが起爆剤になって、たまたまそれが小脳で起こって・・・
でも、それはてんかんですから火花が飛び散ってもそれが終われば元に戻るわけで。
そんなこと考えられるんじゃないかって、いろんな先生に聞くんですけど、誰もそうだって言ってくれる先生はいないんですよ。
斜頸でウチに来ていただいた子たちが亡くなる割合はかなり低いんですよ。
だから、フィバンテルとステロイドの治療は間違っていないんじゃないかと思っています。」
― 前歯の治療&術部の確認 ―
「手術の後は削らなかったので、伸びちゃっていると思うんですが・・・。」
「ほら、ここでロックかけてますもんね。
とりあえず、止まってます。」
一応、噛み合っていないながらも、上下の歯がぶつかって止まってくれていたようです。


本当は、上の前歯の先が少し下の歯にかぶさるくらいがちょうどいいのですが、ユキはいくら削っても、下の歯が出っ張っちゃってる。
「削っても、なかなか噛み合わせがうまくいかないのですが・・・。」
「ある程度やっても治らないときは、奥歯が伸びないように削る。
まめに削ってやっていれば奥歯も伸びないですから、そういう気持ちでやられたらいいと思います。」
「この歯で一生懸命、糸取ったんですね~。」
きち先生、歯を削りながら感心していらっしゃいました。
なにしろ、診ていただいたときには糸1本残っていませんでしたから・・・。
「ウサギさんの歯はどこまで削ったら、痛くないものですか?
削りすぎが怖いんですけど。」
「神経が出てきたら明らかに痛がりますから、そういう時はやめた方がいいです。
それと、神経が出ると感染が起こるので。
このくらいでやめておいたらどうかと思います。」


最後にお腹の状態を確認していただきました。
お腹を触りながら、
「ここの筋肉が厚いとイヤなんですけど、大丈夫ですね。」
良かったです ^^
「次の検診はいつですか?」
「吸収糸なので、もういいそうです。」
「じゃあ、これ取りますね。」
と言ってくださったのは、どうしても剥がしきれなかった絆創膏。
病院で貼っていただいたのがすぐに取れちゃったものだから、ムキになって貼ってしまいました。
「これは、油でとりますから。
ゴキブリホイホイにからまったハムスターとかも油でとるんですよ。
サラダオイルでとれますから。
不思議ですよね~、あれ、ハムスターは面白いようにかかるんですよ。」



「避妊手術した後、最初の換毛ですごく抜けるかもしれないんですよ。
抜けるスピードに生えてくるスピードが間に合わないくらいに。
毛球症にならないように気をつけてください。」
ということです。
そういえば・・・イチも抜けたかな~。
そんな気もしますが、よく覚えていません。
という訳で、とりあえずはすべて、めでたしめでたしということで。
EZも早期発見できたのかと思ったけど、治療を始めるには全然遅かったってのもビックリでしたが。
産まれてすぐなんてねぇ・・・
って、産ませて見れば良かったなんてワケはないと思いますが(爆)


