
年内最後の診察日で混んでるんじゃないかと思いましたが、待合室にはイヌさんネコさんを連れた人がちらほらいる程度。
ラッキー! って思ったけど、でも、後で見たら、ホントは28日は午前で終了だったらしいです。
ウサギさんたちの下痢もすっかり良くなっていたし、先生のお話もじっくりと伺うことができて、ひたすら有難かったです。
きちさんの診察までには名前を、と思いつつ、あれやこれやのドタバタでインスピレーションもわかず・・・。
1号君に問題がなければ再度の里親募集に踏み切れるのだから、早まって名前を付けない方が・・・という思いもどこかにあって、結局は、1号、2号のまま。
- 1号君には衝撃の宣告 -
「1号君です」
ひょいっと、診察台に上げると、
「これ、種類は何ですか?」
「日本白色種です。」
「3ヵ月くらいか・・・もっと大きくなりますでしょ?」
「ええ、まだまだ、お子ちゃまですね。」
きち先生、手際良くパチパチ爪を切ってくださいます。
「この子が首を振る方の子なんです。」
きち先生、手で1号君の顔の前に傘を作りながら、
「こういうところでは、分かりにくいですかね?」
「そうですね、家にいて座ってるときなんかに、すーっすーって左右に揺れるんです。」
「左右どちらかに傾いていたりとかはないですか?」
「こう水平に左右に動くんですけど、あー、うつむいているときなんかにクックックって傾いている事もあったかもしれません。
どちら側かは覚えてないんですけど・・・。」
「垂直跳びはしてますか?」
「いえ・・・2号君の方はピョンピョン跳んでますけど、この子はあまり跳ばないです。
ちゃんと走ってはいますけど。
ただ、来てすぐに下痢しちゃったから、そんないうほど出してあげてないんです。」
「くしゃみはしてないですか?」
「してないです。」
「下痢のとき、ウンチはどうでしたか? 何か出ませんでしたか?」
「ウンチの検査もしていただきましたけど、何もなかったです。」
いつものように仰向け抱っこで歯を見ていただいて・・・
「前歯がバッティングしてますね。」
「え?」
本題に入る前に、もうペケがついてボーゼンです。
問題のある子ってのは、複合していろいろなものがあるのかしらね・・・?
「上の歯と下の歯の噛み合わせが合ってないです。
普通の子はこう縦に噛むんですけど、前歯がこうなっている子は縦に噛めないから横にこすりあわせて噛みます。
食べてるときに音がしたりしませんか?」
「そうなんです、キュッキュッキュって音させながら食べてるので、何かと思ってました。」
てっきり、食べなれない牧草を不器用に食べているからだとばかり・・・。
「どうします? 切りますか?」
って聞かれたって、???です。
「切らないと、どういうことになりますか?」
「前歯がぶつかり合って奥歯が浮いてしまうので、奥歯がのびてきます。」
そりゃ、切ってもらうっきゃないっしょ。
1号君、キレイに前歯を整えて噛み合わせを作っていただきました。
その間もずっと1号君は先生の腕の中で、でれ~ん。
先生、そのままの体勢で処置した前歯を見せながら、
「ずっとこの状態を維持してほしいんです。
ときどきやすりで削ってあげてください。
こういうの、ダイソーとか百均でも売ってますから。
片側が平たくて反対側に角があるのが使いやすいです。」
不器用さにかけては、人一倍。
ちゅんちきにできますでしょうか・・・

「斜頸とか何とかって検査は・・・?」
「斜頸病って病気があるわけじゃありませんからね、これは小脳に問題があってこうなっているんです。
毎日たくさんのウサギを見ているちゅんちきさんがおかしいって思うんだから、この子はそうなんですよ。
ほぼ、間違いなくエンセファリトゾーンです。」
「もう、検査をするまでもないってことですか?」
「検査をしても、本当は感染しているのに陰性になっちゃうこともあるので、検査自体にあまり意味がないんです。
それよりは、一刻も早く治療を始めた方がいい。」


1号君は、脳の中ですでにいくつかの爆発が起こっている状態らしいです。
脳にエンセファリトゾーンという原虫が寄生し、免疫系がそれを排除しようと攻撃することによって脳に障害がおこる。
脳のどの部分が損傷したかによって、斜頸であったり、旋回であったりという症状が出てくる。
必ずしも目に見えて分かる障害ばかりではないから・・・ということです。
1号君はときどき、ごくわずかの間ですけど、どよ~んとしていることがあります。
やっぱり、この子は何か違うって思うんですが、そういうことなんですね。
「エンセファリトゾーンの子は前歯のバッティングが多いんです。
関連があるんじゃないかとは言われていますけど、その研究をされていた先生が転勤になって、今は違うテーマの方が忙しくなっちゃったから・・・。」
あああ・・・ということは、1号君、正真正銘、正しくエンセファリトゾーンの子ってことなのね(涙)
この病気で苦しんでいるウサギさんはたくさんいるのでしょうから、研究の方もぜひ進めてほしいものです。
「完治はできますか?」
「エンセファリトゾーンは撲滅はできません。
以前は、皆さんに検査をお願いして、陽性だった子にはお薬を飲んでもらって陰性になるまで調べたこともあったんですけど、なかなかなくならないんです。
一度陰性になって症状がなくなった子でも、数年後にまた症状が出てしまうこともあります。
そのときに調べると抗体価もまた上がっているんです。
今は、やっつけるんじゃなくって、折り合いをつけることが大事だって考えています。
エンセファリトゾーンとウサギさんは、はるか昔からずっと一緒に暮らしてきた歴史があるので、そう簡単には排除できないんです。
エンセファリトゾーンがいても、免疫系がそれに気づかなければいいんですよ。
うまくやりすごしてくれれば。
免疫がそれに気付いて、攻撃を始めちゃうと脳細胞を破壊してしまって障害がおこるんです。」
「 IgG 抗体を測ると感染しているかどうかが分かります。
もう一つ、 IgM 抗体というのがありますが、これは発症したときにだけ跳ね上がります。
だから、斜頸が起こったときに測れば IgM 抗体が上昇しているんじゃないかって調べた先生がいるんですけど、斜頸になるちょっと前にすでに上がっていて、症状が出たときには治まっているんですよ。
がっかりしてましたけど。」
「発症して症状が出るまでにラグがあるってことですかね。
それだと、斜頸が起こってからお薬を飲んでも遅いってことですか?」
「でも、起こってからじゃなきゃ分からないから、お薬が飲めるタイミングはそのときしかないんです。
それでも斜頸は治るんですよ。
お薬はピンポイントで、症状が出ているときに使いたいってのがあるので、通常は4週間続けるんですけど、いつも最後の4-5日分は使わないで残してくださいってお願いしてます。
それで、持っていてもらって、もし、その後急に症状が出たらすぐに飲ませてくださいって、お願いしているんです。」
エンセファリトゾーン陽性のウサギさんの割合は70%位だそうです。
「この子たち、実験動物なのにまさかと思いましたよ。」
「でも、○○薬科大学の先生が実験動物でエンセファリトゾーン・フリーのウサギを作ろうとしたけど、どうしても無理だったって言ってましたよ。」
うーん、そんなもんですか・・・
実験用のクリーンなウサギさんでも、やっぱりその運命からは逃れられないってことでしょうか。
確かにSPFのウサギさんでも、エンセは項目に入っていないし。
でも、クローズドコロニーの中に感染個体がいたら、たちまちのうちに全員感染ってことにはならないのかしら?
この子たちは、実験動物の中でも一番お安いグレードなので、そんなたいそうな管理はされていなかったはずですが・・・。
「あの、 【エンセファリトゾーン研究会】 ってHPがあるのご存知ですか?」
「はい、良く存じ上げております。」
「じゃあ、そこもよく読んでおいてください。」
そのサイトは以前から知っていましたが、何しろ我が家のウサたちは最強の実験動物グループです。
ライオンズだって、ウチに来るまでは箱入り息子で、お迎えしてからだってそんなそぶりは皆無でした。
だから、ウチには関係ないわ・・・って、知識として頭の片隅に入れておいた程度でした。
あ~あ、バチが当たったかしらん・・・。


1号君には、エンセファリトゾーンの治療薬フィバンテルと脳を保護するための薬、バイオノーマライザーを使うそうです。
「僕はね、脳を守ることが一番大事だと思っているんですけど、なかなかそれをやってくれる先生がいないんですよ。
症状を抑える薬ばっかり先にやって、それで脳がやられて半身不随になったウサギさんはたくさんいるんです。」
発症してしまった場合、症状が半端でないだけに後遺症が残るかどうかは大きな分かれ道です。
先生のお考え一つで、その後の運命が決まっちゃうみたいで怖いです。
「お薬は、とりあえず2週間分出します。
大変じゃなかったら、次回、体重を測りに連れて来てください。
大変だったら、体重を教えていただくだけでもいいです。」
1号君は成長途上で体重がどんどん増えていく時期なので、体重を見ながら、ということです。
次回、ライオンズの健診が1月9日なので、その時に残り2週間のお薬をいただくことになりました。
1号君も一緒に連れて行ってあげたいけど、おんぶして抱っこして、台車に乗せて・・・!?
すごい事になりそうです。

お薬は1週目は体重 3kg として、2週目分は 3.5kg として出していただきました。
体が大きい子のエンセは治療が難しいそうです。
なかなか良くならない事が多いそうです。
そして、 「この子は開張肢になりそうな気がする。」 とも。
この大きさで半身不随にでもなられたら・・・大変だなぁ。
早く気付いたから、まだ良かったのだけど。
「体重が減ってきたら、それも発症のサインなので、体重はマメに測って注意するように。」
とも言われました。
やはり、大ウサ用の体重計も買った方がよさそうです。
う~ん、モノいりです。
- 2号君は大丈夫 -
そして、お次は2号君。
先生、抱いた瞬間に、
「うん、この子は全然違いますね。大丈夫です。
ほら、歯もきれいだし。」
やはり、一瞬で分かっちゃうんですね、さすがです。
「でも、もうこの子も感染しちゃってますよね。」
「いや、意外に感染しにくいとも言われてますから・・・。」
「それが・・・この子たち、同居させちゃっているんです。
最初は別個のケージに入れてたんですけど、下痢しちゃってから、ちょっとでも暖かいようにって一緒にしちゃったんです。」
「ああ、それじゃあ、ダメですね。」
エンセは胎盤からの母子感染もありますが、尿中にスポアが排出されて、他の子がそれを舐めて感染が広がります。
始末に悪い事に、1号君はお部屋でよく粗相します。
それを拭いてるときに2号君が・・・ということもしばしばで。
これで感染していなかったら、まさしくスーパーラビットです。
「感染しているとしたら、この子もお薬を飲んだ方がいいんですよね?」
「前は発症していなくても陽性の子にはお薬を飲んでもらってたんですよ。
でも、健康なときにはお薬の効果があまりないんじゃないか、脳にお薬が届いていないんじゃないかという気がしているんです。
普段、血管から脳へは栄養分のグルコースくらいしか通らなくて、脳に炎症が起こったときにだけチャンネルが開いてお薬が通るんじゃないか、そんな印象があります。
だから、発症しなければお薬は使いたくない。」
「ヘタにお薬を飲んじゃうと、いざというときに効かなくなっちゃうとか?」
「いや、お薬への耐性はないと思います。」
「小さいうちに感染しちゃった子の方が発症しにくいとか、発症してもひどくならないんじゃないかっていうのはあります。
エンセ・フリーのまま大人になって、それから感染した場合がひどくなる気がします。」
「じゃあ、2号君はむしろ安全だってことですね。」
- この子たちの将来は? -
合間、合間に事のいきさつをお話ししたのですが、この子たちがキャンセルされた理由を聞いて、
「あ~、それは悲しいな・・・」
と淡々と共感してくださった、きち先生。
「もし何でもなかったら、もう一度里親募集にチャレンジするつもりだったんですけど・・・難しいですね。」
「2号君は大丈夫ですよ。
ただし、行った先にエンセファリトゾーンの治療ができる先生がいらっしゃることが条件です。」
「それは・・・厳しいですね。」
地方には、そうそうウサギの診療が得意な病院というのはありません。
自分の居住地だって、きちんとウサギをみていただける病院は皆無です。
この前、下痢を診ていただいたときも、あえて黙っていたのだけれど、やはり、1号君の動きの不自然さには気付かれませんでした。
そして、なによりの問題が。
「実はこの子たち、すごく仲が良くなっちゃって・・・引き離すに忍びないんです。」
「ああ、そうか~! それはありますね。
2号君は1人でも生きていけます。
でも、残された1号君は・・・難しいかもしれない。
自分1人じゃ生きていけないのが分かっているから、2号君に頼っちゃっている面があるかもしれませんね。」
「ときどきね、治ったときに “ウサギが変わった” ようになる子がいるんですよ。
“病気のときはいつも抱っこして甘えてくれて可愛かったのに、元気になったとたん触らせてもくれなくなって寂しい” っておっしゃる方がいますね。
もちろん、治った方がいいのは確かなんですけど。
病気のときは人に頼らないと生きていけないから、ものすごく可愛いんですけど、元気になったらその必要もなくなって自立しちゃう、うまくできてますね。」
「そうそう、この子も、一番可愛かったんです。
一番体格が良くて一番可愛かったから、この子がいいって私が選んで連れて来たんです。」
「うーん、可愛い子ってのは、病気を持ってるってのもあるんだよな~」
「可愛くない子を選べば、こんな事にはならなかったのかな・・・(涙)」
「でもね、よく里親募集をやっていらっしゃる方の話では、病気で障害のある子の方がもらわれやすいっていいますよ。」
「あ~、 “この可哀想な子をだれか幸せにしてあげてください” みたいな・・・。
そういうの、あるかもしれませんね。
でも、こんな大きなの2羽じゃ・・・もっと小さかったら良かったのに。」
とにかくこの先は、まず4週間投薬して、何かしらの障害が出るのかどうか見極めないといけません。
「もらってください」 と言うにはかなりハードルが高いです。
こうなったら、君たちには早く名前を付けて、お家も買いましょうね。
お会計
1号君 診察料 1,000円
内用薬 3,500円
2号君 診察料 1,000円 +消費税
何気に歯科処置料をまけてくださったようです。
感謝!


